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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)38号 判決 1985年7月11日

原告

株式会社アイシス

(旧商号株式会社山田プレス販売)

被告

伊藤工業株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和56年審判第6679号事件について昭和56年12月15日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「円筒カム駆動方式に依るロールフイード装置」とする実用新案登録第1318126号考案(昭和49年8月24日実用新案登録出願、昭和54年7月7日出願公告、昭和55年3月18日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者であるが、原告は、昭和56年4月7日被告を被請求人として本件考案の登録無効の審判を請求し、昭和56年審判第6679号事件として審理された結果、同年12月15日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は昭和57年1月28日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

プレスのクランク軸の回転力等によつて回転せしめられる円筒カムによりインデツクスプレートを間欠回転せしめ、主動送りロール駆動軸を介して該主動送りロール駆動軸に着脱自在に連結せる主動送りロール軸に取着せる主動送りロールを間欠回転させ、該主動送りロールに対接せる被動送りロールと相まつて材料をフイードする円筒カム駆動方式に依るロールフイード装置に於て、前記主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ、その軸端に換歯車Aを着脱自在に取着すると共に、前記主動送りロールの端部にも換歯車Dを着脱自在に取着し、他方ロール収容ケーシングに取着したるホルダーに軸を設け、該軸に、歯車支持体を回転可能に配し、その歯車支持体に前記換歯車Aにかみ合う換歯車Bを着脱自在に取着すると共に、同様前記換歯車Dにかみ合う換歯車Cを着脱自在に取着し、主動送りロール軸の回動トルクを換歯車A―B―C―Dを介して主動送りロールに伝達する如くにし、プレス加工条件、作業状態等の変更に応じて、前記換歯車AとB及びCとDの比を変更し、変更後の条件に即した要求される材料の送り長さを得られる如くにしたことを特長とする円筒カム駆動方式に依るロールフイード装置。

(別紙図面(1)参照)。

3  審決の理由の要点

(1)  本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  ところで、実開昭49―58068号公開実用新案公報(以下「第1引用例」という。)には、入力軸の回転力によつて回転せしめられる円筒カムによりインデツクスプレートをもつた出力軸を間欠回転せしめ、出力軸と着脱自在な送りローラの軸にそれぞれ着脱自在である掛換歯車を介して、出力軸の回転を送りローラ軸に伝達し、送りローラを間欠回転させ、送りローラに対接せる押圧ローラと相まつて材料を間欠的にフイードする円筒カム駆動方式に依るローラフイード装置であつて、前記出力軸と送りローラ軸の各軸端に着脱自在に取着した掛換歯車を掛換えることにより、送りローラと押圧ローラとに挾持された材料を種々な送り量で間欠的に送るようにした装置(別紙図面(2)参照)が記載されており、またドイツ連邦共和国特許出願公開第1914773号明細書(以下「第2引用例」という。)には、間欠回転する軸の回転を中間軸を利用した変速掛換歯車機構を介してローラ軸に伝達することによつて、ローラ間に挾持された材料を種々な送り量で間欠的に送るようにした間欠送り装置(別紙図面(3)参照)が記載されているものと認める。

(3)  そこで、本件考案と第1引用例記載の装置とを対比すると、両者は主要な部分で互いに一致、対応する構成を有しているが、第1引用例には、本件考案の必須の構成要件の1つである「主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ、その軸端に換歯車Aを着脱自在に取着すると共に、前記主動送りロールの端部にも換歯車Dを着脱自在に取着し、他方ロール収容ケーシングに取着したるホルダーに軸を設け、該軸に、歯車支持体を回転可能に配し、その歯車支持体に前記換歯車Aにかみあう換歯車Bを着脱自在に取着すると共に、同様前記換歯車Dにかみ合う換歯車Cを着脱自在に取着し、主動送りロール軸の回転トルクを換歯車A―B―C―Dを介して主動送りロールに伝達する如くにした」点に対応する構成は、記載されておらず、また、示唆されてもいない。更に、第1引用例に記載されていない本件考案の構成要件、特に「主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ、その軸端に換歯車Aを着脱自在に取着すると共に、前記主動送りロールの端部にも換歯車にもDを着脱自在に取着した」点は、第2引用例に記載され、あるいは示唆されているものと認めることもできない。

そして、本件考案は、第1引用例及び第2引用例のいずれにも示されていない前記の構成要件によつて、材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易簡便に調節することができるという明細書記載の作用効果を奏するものと認められ、またそのような作用効果は、第1引用例及び第2引用例記載の各装置には期待することができないものである。

したがつて、本件考案は、第1引用例及び第2引用例記載の各装置に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認めることはできず、請求人(原告)の主張する理由及び提出した証拠方法によつては、本件考案についての登録を無効とすることはできない。

4  審決の取消事由

審決は、本件考案の構成要件のうち、「(イ) 主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ、(ロ) その軸端に換歯車Aを着脱自在に取着すると共に、前記主動送りロールの端部にも換歯車Dを着脱自在に取着し」た点は、第1引用例及び第2引用例に記載又は示唆されてなく、本件考案は、右(イ)及び(ロ)の構成要件によつて、「材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易簡便に調節することができる」という作用効果を奏するものであるから、本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置に基づいて容易に考案をすることができたものとは認められないと認定判断した。

しかしながら、本件考案の奏する作用効果は、前記(ロ)の構成要件のみにより生じるものであるところ、右構成要件は、第1引用例及び第2引用例に記載された公知の技術から成り立つているにすぎず、前記(イ)の構成要件は第2引用例記載の装置の単なる設計変更又は慣用手段の付加にすぎない。したがつて、本件考案は第2引用例記載の装置と同一である。また、本件考案の前記(イ)の構成をとることは、第1引用例及び第2引用例記載の装置の構成の一部を本件出願当時の公知技術で置換えることによつて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

したがつて、審決の前記認定判断には誤りがあり、違法であるから、取消されるべきである。

(1)(1) 本件考案の奏する特有な作用効果すなわち「材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易簡便に調節することができる」という作用効果は、前記「(ロ) その(主動送りロール軸の)軸端に換歯車Aを着脱自在に取着すると共に、前記主動送りロールの端部にも換歯車Dを着脱自在に取着した」構成要件のみにより生じる。

そして、前記(ロ)の構成要件は、更に次の構成要素に分割される。

①  歯車の交換(第1引用例記載の装置では着脱自在な歯車、第2引用例記載の装置では歯車1、2、3及び4の交換)によつて主動送りロールに所定の回転数を得るために歯車を着脱自在に取着してあること。

②  歯車取着の位置は、外部操作によつて容易に着脱できるように駆動軸である主動送りロール軸の軸端に歯車A(第2引用例記載の装置では歯車1)を、中間軸である軸10の軸端に歯車B及びC(第2引用例記載の装置では歯車2及び3)を、被駆動軸である主動送りロールの軸端に歯車D(第2引用例記載の装置では歯車4)を着脱自在に取着したこと。

しかるに、前記①及び②の技術は、第1引用例及び第2引用例に記載された次のような公知の技術から成り立つているにすぎない。

(a) 歯車比を変更することによつて、一定の駆動軸の回転数を、要求された被駆動軸の回転数に変更するという公知の技術(第1引用例及び第2引用例記載。)

(b) 歯車比を変更するために着脱自在にした4枚の歯車のすべてにつき、外部操作によつて容易に着脱できるように、駆動軸の軸端、中間軸の軸端及び被駆動軸の軸端にそれぞれ歯車1枚、同2枚、同1枚を取着しておくという公知の技術(第2引用例記載)。

次に、本件考案の前記「(イ) 主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ」る構成要件が第1引用例及び第2引用例に記載されていないことは認める。しかしながら、前記(ロ)の構成要件に(イ)の構成要件を加えたとしても、「材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易簡便に調節できる」効果に何ら影響を及ぼさない。けだし、駆動軸を中空の被駆動軸に貫通した構成にしなければ、駆動軸、中間軸及び被駆動軸の各軸端に歯車を着脱自在に取着することができないというのであればともかく、第2引用例記載の装置のように駆動軸、中間軸及び被駆動軸とを3軸別々に配置しても、各軸端に歯車を着脱自在に取着することができる以上、第2引用例記載の装置においても、外部操作によつて右各歯車を容易簡便に調節できるからである。

したがつて、本件考案の前記(イ)の構成要件は、第2引用例記載の装置の単なる設計変更又は単なる慣用手段の付加にすぎない。

それ故、本件考案は第2引用例記載の装置と同一である。

(2) 以上の原告の主張に対し、被告は、本件考案は、駆動及び被駆動の2軸を貫通及び中空軸としたことにより、前者に取着されたところの歯車A、後者に取着されたところの歯車Dと、中間軸に取着された歯車B、Cを取換えるに際して調節の必要が全くなく、このことから本件考案に特有の格別の効果を生じる旨主張する。

しかしながら、本件考案の明細書には、このような作用効果は記載されていないのみならず、調整の必要が全くないというためには、駆動軸、被駆動軸の2軸を貫通軸、中空軸として、しかもこれらを固定軸とし、更に、中間軸もまた、固定軸としなければならないが、本件考案の実用新案登録の請求の範囲及び考案の詳細な説明には、駆動軸(貫通軸)、被駆動軸(中空軸)の2軸一体となつたものと中間軸とがいずれも固定されているとの限定はなされていない。仮に、これらの軸がいずれも固定されているものと解釈してみても、貫通軸、中空軸の2軸一体となつたものと中間軸の各軸端に取着された歯車の着脱は、右両軸に取着される歯車と歯車との間にすき間が多ければ多いほど容易となるものの、その容易さに反比例して、右歯車間にバツクラツシユが大きくなり、歯車のかみ合せの精度、ひいては、フイードピツチの精度が悪くなる結果を招来し、反面において、歯車と歯車とのすき間が少なくなればなるほどバツクラツシユは小さくなるかわりに、これら歯車の着脱は、より困難を来す結果を招来する。これに対し、第2引用例記載の装置は、駆動軸、被駆動軸、中間軸の3軸構成をとつているが、各軸端の歯車の着脱を容易にし、かつかみ合せの調整までできて、かみ合せの精度、すなわちフイードピツチの精度をより高めているのであつて、本件考案よりはるかに進んだ技術的思想を開示している。

(2)(1) 本件考案と第2引用例記載の装置との相違点である前記「(イ) 主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ」る点は、次のとおり、きわめて容易にできる公知技術の置換にすぎない。

被駆動軸を中空とし、同じく駆動軸をその中に貫通させる構成をとることは、昭39―26293号実用新案公報の第1図、第2図(以下「第1事例」という。)、雑誌「機械設計」1973年4月号日刊工業新聞社昭和48年4月1日発行の第33頁図12(以下「第2事例」という。)、雑誌「機械設計」1974年3月号日刊工業新聞社昭和49年3月1日発行の第6頁の図2(以下「第3事例」という。)、石田道夫、井戸守著「時計の科学と修理の実際」共立出版株式会社昭和33年8月5日発行の第41頁の図3・12及び図3・13(以下「第4事例」という。)、国友秀夫、佐藤政弘著「わかりやすい最新時計学」株式会社誠文堂新光社昭和43年11月30日発行の第161頁の図5・33(以下「第5事例」という。)から明らかなように、本件考案の出願当時公知の技術である。

また、時計及び分針が同一軸となるアナログ時計類のように、2軸を中空軸及び貫通軸という二重軸構造にしなければならない必然性のあるものは別として、「主動送りロール軸(駆動軸)を主動送りロール(被駆動軸)内に回転可能状態に貫通した」構成にしなければ駆動軸、中間軸及び被駆動軸の各軸端に歯車を着脱自在に取着することができないというのであればともかく、第2引用例記載の装置のように、駆動軸と被駆動軸とを別々に配置しておいても、各軸端に歯車を着脱自在に取着することがてきるのである。そして、第2引用例記載の装置のように3軸を別々に配置しておいても、材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易簡便に調節できることも明らかである。

したがつて、本件考案は、第1引用例及び第2引用例記載の装置の構成の一部を第1ないし第5事例記載のごとき公知技術で置換え、主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめたものにすぎず、しかも置換えによつてその公知技術のもつ効果以上の別の効果をもつわけではなく、結局、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(2) 右(1)の主張及び第1ないし第5事例にかかる証拠方法提出の適否に関する原告の見解は次のとおりである。

原告は、審判手続で提出した昭和56年5月9日付審判請求理由補充書において、本件考案の無効理由として、「本件実用新案にかかるロールフイード装置と主旨を同一にするものである」(第7頁、第8頁)、「本考案と全く同一のものであり……この点においても本考案と全く同一なものである」(第10頁)と主張したが、その趣旨は、本件考案が第1引用例及び第2引用例記載の各装置と対比して何らの新規性もないということのみでなく、本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置からきわめて容易に考案できたものであつて進歩性もないというものである。

原告は、本件訴訟においても、第1引用例及び第2引用例記載の各装置との対比において、駆動軸、中間軸、被駆動軸の3軸を構成要素とする第2引用例記載の装置の駆動軸を貫通軸に、被駆動軸を中空軸に換え、本件考案のような構成にすることは、置換可能性がある(すなわち、本件考案の前記(イ)の構成要件は第2引用例記載の装置の単なる設計変更又は単なる慣用手段の付加にすぎず、したがつて、本件考案には新規性がない。)と主張すると共に、置換容易性がある(したがつて、本件考案には進歩性がない。)と主張するものであつて、決して新たな証拠に基づき新らたな無効理由を主張するものではない。

原告が前記(1)において主張する公知技術は本件考案の出願当時の技術常識であり、第1ないし第5事例にかかる証拠方法もこれを認定すべき資料として提出するにすぎない。

仮に、原告が審判手続において、新規性がないという無効理由しか主張していなかつたとすれば、それにも拘らず審決が本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないと判断したことは、当業者が申し立てない理由について審理したにもかかわらず、その審理の結果を原告に対して通知し、相当の期間を定めて意見を申し立てる機会を与えなかつたものであつて、審決には、実用新案法第41条の準用する特許法第153条第2項の規定する手続に違反した違法がある。

第3被告の答弁及び主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の審決の取消事由の主張は争う。

審決の判断は正当であつて、審決には原告主張の違法はない。

(1)  第1引用例及び第2引用例には、歯車比を変更することによつて、一定の駆動軸の回転数を、要求された被駆動軸の回転数に変更する技術が示され、また、第2引用例には、歯車比を変更するために着脱自在にした4枚の歯車のすべてにつき、駆動軸の軸端、中間軸の軸端及び被駆動軸の軸端にそれぞれ歯車1枚、同2枚、同1枚を取着しておくという技術が示されている。

しかしながら、本件考案の構成要件のうち、「(イ) 主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ、(ロ) その軸端に換歯車Aを着脱自在に取着すると共に、前記主動送りロールの端部にも換歯車Dを着脱自在に取着した」点は、第1引用例、第2引用例のいずれにも記載されていず、又示唆されてもいない。

本件考案の奏する特有な作用効果、すなわち「材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易簡便に調整することができる」という特有の利点は、前記(イ)及び(ロ)の構成要件が合わさつて可能になるものであつて、原告主張のように(ロ)の構成要件のみから生じるものではない。すなわち、本件考案は、実用新案登録請求の範囲記載のとおり「主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ、その軸端に換歯車Aを着脱自在に取着すると共に、前記主動送りロールの端部にも換歯車Dを着脱自在に取着し、他方ロール収容ケーシングに取着したるホルダーに軸を設け、該軸に、その歯車支持体を回転可能に配し、その歯車支持体に前記換歯車Aにかみ合う換歯車Bを着脱自在に取着すると共に、同様前記換歯車Dにかみ合う換歯車Cを着脱自在に取着し、主動送りロール軸の回転トルクを換歯車A―B―C―Dを介して主動送りロールに伝達する如くに」する構成をとつたものであり、そこでは、主動送りロール軸が主動送りロール内を貫通しているので、固定2軸とすることができ、換歯車の掛換え時に、何ら調整を要せず換歯車を掛換えできるものであり、このようにしてフイードピツチを調節するに際し、外部操作によつて容易簡便に行うことができるという特有の利点を可能にするものである。前記(ロ)の構成要件は、フィールドピツチを調節できるという利点を可能にするものではあるが、それだけで外部操作によつて容易簡便にフイードピツチを調節できるという本件考案の特有の利点を可能にするものではない。

原告は、本件考案の前記(イ)の構成要件については、第1引用例及び第2引用例に記載されていないことを認めたうえで、前記(イ)の構成要件を前記(ロ)の構成要件に加えたとしても、第2引用例記載の装置に比して特有の作用効果を生じるものでなく、前記(イ)構成要件は該装置の単なる設計変更又は単なる慣用手段の付加にすぎない旨主張している。

しかしながら、第2引用例記載の装置は、軸が6、7、9の3軸である。したがつて、換歯車1ないし4を掛換えする場合において、軸9に取着された換歯車1と軸7に取着された換歯車2とをバツクラツシユなど生じさせることなく最適にかみ合わせ、かつ、軸6に取着した換歯車4と軸7に取着した換歯車3をも最適にかみ合わせるためには、掛換えの都度、中間の軸である軸7をアーム8によつて微調整する必要がある。

これに対し、本件考案においては全く調整する必要がなく、フイードピツチを容易簡便に調節できるという特有にして格別の効果を生じるものであり、また、「主動送りロール軸が主動送りロール内に回転可能状態にて貫通」していることにより、装置全体がコンパクトになる利点を奏するものである。

それ故、原告の前記主張は失当である。

(2)(1) 原告申立の審判請求にかかる審理の対象は、昭和56年5月9日付審判請求理由補充書に記載された新規性(実用新案法第3条第1項第3号該当)及び進歩性(同条第2項該当)の有無であり、右審判手続において請求人たる原告が提出した引用証拠は、第1引用例及び第2引用例のみである。

(2)  第1引用例及び第2引用例には、歯車比を変更することによつて、一定の駆動軸の回転数を、要求された被駆動軸の回転数に変更する技術が示され、また、第2引用例には、歯車比を変更するために着脱自在にした4枚の歯車のすべてにつき、駆動軸の軸端、中間軸の軸端及び被駆動軸の軸端にそれぞれ歯車1枚、同2枚、同1枚を取着しておくという技術が示されているが、本件考案の前記(イ)及び(ロ)の構成要件は、第1引用例及び第2引用例のいずれにも記載されていず、また示唆されてもいないことは前述のとおりである。

そして、第1引用例又は第2引用例には、第1引用例又は第2引用例と第1ないし第5事例のいずれかを組合わせることを予測させるような記載も示唆も全くないと共に、第1引用例又は第2引用例記載の各装置中の構成の一部を第1ないし第5事例のいずれかで置換えることを予測させるような記載は全くない。また、第1ないし第5事例にも、その各々と第1引用例又は第2引用例を組合わせることを予想させるような記載又は示唆は全くない。いわんや、第1ないし第5事例は本件考案の属する技術分野である金属版等の加工及び薄板等の取扱いと全く異なつた技術分野であるベルトコンベアー及びウイチドラム等の駆動機構における減速装置(第1事例)、モートル(第2事例)、減速機(第3事例)、時計機構(第4、第5事例)に関するものであつて、本件考案の属する技術分野の技術水準を示すものではない。そのうえ、第1ないし第5事例は、回転力を伝える軸を中空とし、その中に別の軸を通したこと及びそれらの技術分野特有の他の機構を示したにすぎず、回転力を伝えるだけでなく、プレスの材料を送るロール(主動送りロール)を中空として、その中空ロールの端部に換歯車を取着した点が全く示唆されていないから、第1ないし第5事例を参照しても本件考案のような構成要件を採用することは可能でない。

更に、本件考案は、単なる軸ではなく、プレスの材料を送るロール自体を中空として、主動送りロール軸をこの主動送りロール内に貫通させているので、固定2軸とすることができ、換歯車の掛換え時に、何ら調整を要せず換歯車を掛換えできるものであり、このようにしてフイードピツチを調節するに際し、外部操作によつて容易簡便に行なうことができるという特有の利点を可能にするものであつて、これらの効果は、第1引用例、第2引用例に第1ないし第5事例を加えて検討しても予測することができない。

したがつて、本件考案は、第1引用例、第2引用例及び第1ないし第5事例から、構成上も効果上も予測することができず、進歩性を有するものである。

第4証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(1)  成立に争いのない甲第2号証によれば、本件考案の明細書の考案の詳細な説明には、本件考案は、「プレスの材料自動給送装置として採用するに好適な円筒カム駆動方式に依るロールフイード装置に於て、加工要求並びに作業状態等の条件変更に応じて材料の送り長さ(以下Feed・Pitchと称する)を調節し、変更後の条件に即した要求Feed・Pitchを容易簡便に得られる如くにした円筒カム駆動方式に依るロールフイード装置に関するもの」(本件考案の実用新案公報第2欄第3行ないし第11行)であつて、従来の円筒カム駆動方式によるロールフイード装置が有していた「材料のFeed・Pitchを容易・簡便に調節し得ない欠点」(同第27行、第28行)を解決すると共に、「①その調節範囲を簡単な外部操作によつて、広範囲に自由に選択し得るようにしそれにより、材料の要求Feed・Pitchを広範囲に亘つて選択し得るようにした円筒カム駆動方式に依るロールフイード装置を提供するにあるとともに、②材料の送り精度を高水準に維持しつつ、材料のFeed・Pitchを広範囲に亘つて調節し得る円筒カム駆動方式に依るロールフイード装置を提供するにあり、③それらの課題解決と従来の利点を併せもつことにより、厳密な意味での材料を高能率的に自動送りすることが可能な、従つてプレス加工の生産性を格段と向上し得る円筒カム駆動方式に依るロールフイード装置を提供する」(同欄第37行ないし第3欄第13行)ものであつて、そのために当事者間に争いのない前記本件考案の要旨を必須の構成要件とするものである旨記載されていることが認められる。

原告は、審決が本件考案と第1引用例及び第2引用例記載の各装置とを対比し、本件考案の構成要件のうち、「(イ) 主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ、(ロ) その軸端に換歯車Aを着脱自在に取着すると共に、前記主動送りロールの端部にも換歯車Dを着脱自在に取着し」た点は、第1引用例及び第2引用例に記載又は示唆されてなく、本件考案は、右(イ)及び(ロ)の構成要件によつて、「材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易簡便に調節することができる」という作用効果を奏するものであると認定判断したのは誤りである旨主張するので、まずこの点について検討する。

成立に争いのない甲第4号証によれば、第2引用例は、高速プレスにおけるストリツプ状又は帯状工作物用のロール送り装置に関する発明であつて、右ロール送り装置において、原動機によつて回転する駆動軸としての軸6の軸端に歯車4を取着し、この歯車をアーム8に軸7(中間軸)を介して取着された歯車3(装置位置は軸7の軸端の近接位置である。)に咬合させ、この歯車3と同軸に歯車2を軸7の軸端に設け、更に歯車2をロール10を回転させる被駆動軸としての軸9の軸端に取着された歯車1に咬合させてなる歯車機構を、外部から簡単に歯車を着脱できるように装置の側部に設けているものであつて、前記歯車1、2、3,4は着脱自在とし、この4個の歯車を適宜の歯数のものに交換することにより、ロール10、17間に挾持した工作物19を所望の送り量でプレスに供給することができるものと認められる(第2引用例には、歯車比を変更することによつて、一定の駆動軸の回転数を、要求された被駆動軸の回転数に変更する技術及び歯車比を変更するために着脱自在にした4枚の歯車のすべてにつき、駆動軸の軸端、中間軸の軸端及び被駆動軸の軸端にそれぞれ歯車1枚、同2枚、同1枚を取着しておく技術が示されていることは当事者間に争いがない。)。

本件考案と第2引用例記載の装置とを対比すると、両装置は共にプレスのロールフイード装置であつて、駆動軸(本件考案の主動送りロール軸6、第2引用例の軸6)の軸端に設けた本件考案の歯車Aは第2引用例の歯車4に、中間軸(本件考案の軸10、第2引用例の軸7)に設けた本件考案の歯車B、Cは第2引用例の歯車2、3に、被駆動軸(本件考案の主動送りロール7、第2引用例のロール10)の軸端に設けた本件考案の歯車Dは第2引用例の歯車1にそれぞれ対応するもので、いずれも着脱自在に取着されており、2対の歯車AとB、及びCとDの組合せ、又は4と3、及び2と1の組合せを適宜変更して要求される材料の送り長さを得られるように構成したものであるから、第2引用例記載の装置は、その駆動軸の軸端に換歯車(歯車4)を着脱自在に取着すると共に、被駆動軸の軸端にも換歯車(歯車1)を着脱自在に取着した点において本件考案と一致しており、第2引用例には本件考案の前記(ロ)の構成要件が記載されているというべきである(第2引用例には本件考案の前期(ロ)の構成要件が記載、示唆されていないとした審決の認定は誤りである。)。

原告は、本件考案が前記「(イ) 主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ」ることをも構成要件とするものであり、この構成要件が第1引用例及び第2引用例に記載されていないことを認めたうえ、前記(イ)の構成要件は第2引用例記載の装置の単なる設計変更又は慣用手段の付加にすぎないとし、そのことと前記(ロ)の構成要件が第1引用例及び第2引用例に記載された公知の技術から成り立つていることから、本件考案は第2引用例記載の装置と同一であると主張するに当つて、前記(イ)の構成要件が本件考案の前記作用効果に何ら影響を及ぼすものでない旨主張する。しかしながら、単なる設計変更又は慣用手段の付加という概念は、甲考案の構成を変更して構成の異なる乙考案とした場合において、その構成の変更が慣用的技術手段の転換(aをbに転換する。)又は付加(cを付加する。)に相当するものであり、その変更によつて考案の目的及び効果の差異が生じない時に、甲考案とその構成を変更した乙考案との間に同一性があるこを肯定する判断基準をいうものであり、右基準においては、乙考案の構成をもたらした当該転換技術(前記b)もしくは付加技術(前記c)は乙考案の構成の中に取り込まれ、その効果に結び付いていることを前提とするものであるから、原告が前記(イ)の構成要件が第2引用例記載の装置の単なる設計変更又は慣用手段の付加にすぎないことをいうために、その構成要件が本件考案の作用効果に何ら影響を及ぼすものでないと主張することは、とうてい納得できないところである。しかも、材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易簡便に調節することができるという作用効果は、直接的にはロールフイード装置の側部に設けた歯車機構を構成する前記4個の歯車を外部から着脱し、適宜所望の送り長さを得られる歯数の歯車に交換することによつて達成することができる点において、前記(ロ)の構成要件に結び付くものであつても、本件考案に即して具体的に考察すると、主動送りロール軸を主動送りロール内に貫通させるという前記(イ)の構成要件それ自体が、歯車Aを主動送りロール軸に、歯車Dを主動送りロールの各軸端に着脱自在に取着するという前記(ロ)の構成要件と密接不可分に関連し、これに、ホルダーに配した歯車支持体に前記歯車Aにかみ合う歯車Bを、前記歯車Dにかみ合う歯車Cを着脱自在に取着するという手段が組み合わされた歯車配置が規定されているからこそ、これらの有機的一体性ある構成により、材料のフイードピツチを簡単な外部操作によつて容易に調節することができるという作用効果を奏するものと認めるのが相当であるから、前記(イ)の構成要件が本件考案の作用効果に何ら影響を及ぼさないとする原告の主張は、当事者が提示する歯車微調整の要否の論点につき審究するまでもなく、採用することができない。

そこで、進んで、前記(イ)の構成要件が第2引用例記載の装置の単なる設計変更又は慣用手段の付加にすぎないとする原告主張の当否につき判断するに、本件考案は、前記(イ)の構成要件により駆動軸と被駆動軸とを同心配置し、中間軸と合わせて動力伝導軸を2軸としたものであるのに対し、前掲甲第4号証によれば、第2引用例記載の装置はロール10の軸9、軸7及び軸6を平行に架設していることが認められるから、動力伝導軸を3軸としたものであり、この差異は動力伝導機構として全く別異の形式に属するものを採択したものであるところ、プレスのロールフイード装置における動力伝導機構の技術分野において前者と後者が共に慣用的技術手段にすぎないことを認めるに足りる資料は存しないから、原告の前記主張はその前提において失当とするほかない。

したがつて、本件考案は第2引用例記載の装置と同一であるとする原告の主張は理由がない。

(2)  成立に争いのない甲第3号証によれば、第1引用例は、間欠送り装置に関する考案であつて、この装置は実用新案登録請求の範囲のとおり、「定速回転する入力軸と、間欠回転する出力軸と、着脱自在な送りローラと、押圧ローラと、送りローラの軸及び上記出力軸に着脱自在で種々な歯車比により上記出力軸の回転を送りローラ軸に伝達する掛換歯車とを有し、種々な直径の送りローラを交換し、上記掛換歯車を掛換えることにより送りローラと押圧ローラとに挾持された板材料を種々な送り量で間欠的に送るようにした間欠送り装置」(左欄第9行ないし右欄第6行)であり、2個の掛換歯車7、8をもつて歯車変速装置を構成するものであることが認められる。

本件考案と第1引用例記載の装置とを対比すると、材料の送り長さを変更するに当たつて、本件考案は4個の歯車A、B、C、Dを組合わせて使用しているのに対し、第1引用例記載の装置は2個の掛換歯車7、8を用いている点において相違する。一般に、歯車変速装置には種々の形式のものがあり、歯車数を増やせばフイードピツチはより広範囲に、自由に、かつ高精度に調整できることが予測されるとしても、4個の歯車を組合わせて本件考案のように特定の構成とすることが第1引用例記載の装置に基づいて容易になしうることとはいい難い。

更に、本件考案は、前述のとおり、主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態に貫通する特殊な構成を採用しており、この構成は第1引用例及び第2引用例に記載も示唆もされてなく、この構成により、本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置と全く異なる新規な装置を可能とするものである。

以上によれば、本件考案は、第1引用例及び第2引用例記載の各装置に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められない。

特に、本件考案は、前記「(イ) 主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ」るという特殊な構成を採用することにより、第2引用例記載の装置に比して装置全体を小型化できるものであり、このことは、本件考案の明細書(前掲甲第2号証)には明記されていないが、技術常識からみて自明である。そして、本件考案と第2引用例記載の装置とにおいて、各装置の側部に配置した歯車機構を構成する歯車数こそ同じであるけれども、本件考案は前記のようにして装置を小型化することにより、歯車を外部から着脱し、適宜所望の送り長さを得られる歯数の歯車に交換するに当つて、作業者の行動範囲をそれだけ縮減し、それにより材料のフイールドピツチの操作の簡便性を相当程度に高めるものであり、この点も本件考案が第1引用例及び第2引用例記載の装置に基づいて当業者が容易に考案をすることができたものとは認められないとする根拠となる。

原告は、被駆動軸を中空とし、駆動軸をその中に貫通させる構成を採用することは、第1ないし第5事例から明らかなように公知技術の置換にすぎないから、本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置の一部を第1ないし第5事例記載のごとき公知技術で置換することにより当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第10号証によれば、原告は、審判手続において、本件考案の登録無効の理由として、本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置と対比して同一である(いわゆる新規性がない)こと及び本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである(いわゆる進歩性がない)ことを主張したものと認められ、審決は請求人たる原告の右主張に基づいて本件考案を第1引用例及び第2引用例記載の各装置と対比し、第1引用例及び第2引用例は本件考案の前記(イ)及び(ロ)の構成要件を記載又は示唆するものではなく、更に本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものといえないと判断したことは審決の理由に徴し明らかである。そして、前掲甲第10号証によれば、原告は、審判手続において、右登録無効の理由のいずれにおいても、第1引用例及び第2引用例のみを引用し、同一又は容易と主張したものであつて、特に本件考案の容易性の主張に関連して、本件考案の前記(イ)の構成要件、すなわち、「主動送りロール軸を主動送りロール内に回転可能状態にて貫通せしめ」る構成が、本訴訟において主張する第1ないし第5事例記載の公知技術の置換にすぎない旨の主張をしていないことが明らかである。

ところで、実用新案の登録無効の審判請求に基づいてなされた審決の取消訴訟においては、右審判手続において審理判断されなかつた公知事実の存在を理由として新らたな登録無効の理由を主張することは許されないというべきところ、本件考案の前記(イ)の構成要件が原告主張の第1ないし第5事例記載の公知技術なるものの置換にすぎないといえるかについては、審判手続においてそのような主張がなされなかつたため、審決はこの点に関する判断を示していないのであるから、原告の前記主張は本訴訟においては許されないというほかない(なお、原告の実用新案法第41条、特許法第153条第2項違反の主張は、原告が審判手続において第1引用例及び第2引用例記載の各装置に基づき本件考案をすることがきわめて容易であることを主張していなかつたことを前提とする仮定的主張であるから、その前提を欠き理由がないことは明らかである。)。

(3)  以上のとおりであるから、本件考案の構成要件のうち、前記(イ)、(ロ)の構成要件は第1引用例及び第2引用例に記載又は示唆されてなく、本件考案は当該構成要件によつて前記作用効果を奏するものであり(したがつて、本件考案と第1引用例及び第2引用例記載の各装置は同一とはいえない。)、また本件考案は第1引用例及び第2引用例記載の各装置に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないとした審決の認定判断は、その過程に一部誤りがあるとはいえ結論において正当であつて、審決には原告主張の違法はない。

3  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(蕪山嚴 竹田稔 濵崎浩一)

<以下省略>

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